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コラム おしゃべりコーナー - バックナンバー  

No.94 涙のわけ、アサリのわけ

hiroshi [2003/10/02]

この夏、沖縄の歌、音色に心惹かれ『ビギンの一五一会』というCDアルバムを聴きました。ちなみに、「一期一会」が正しいのに間違えている!というわけではありません。「一五一会」というのは、ギターと三味線をチャンプルして生まれた世界一簡単な和楽器という触れ込みです。 BEGIN(ビギン)という沖縄出身のバンドのメンバーの一人が生み出したものらしいです。

その中に「島人ぬ宝」という曲があります。これで“しまんちゅうぬたから”と読みます。沖縄という島に住む人々の宝物という意味です。この歌はメロディが簡単なので、歌詞カードがあればきっと誰でもすぐに口ずさむことができます。テレビで耳にしたことがあるこの歌を聴いて、何気に口ずさんでいるうちに、途中から私は涙が込み上げてきて止まらなくなりました。自分でも無意識のうちに涙腺がゆるみ、下まぶたに一滴涙がこぼれると、ツツツゥっと頬をつたって、ボトンと落ちるぐらい…。鼻はグジュっとなり、目のまわりも少し赤くなるぐらい…。そして涙声のまま、バカみたいに一人で3番まで口ずさんでしまいました。この歌は1〜3番まで、すべて歌の後半に盛り上がるところがあるのですが、その手前から涙が込み上げ、盛り上がったところでポロッとあふれてしまうんです。涙が。別の日に聴いてもダメ。同じことになる。電車の中で聴いていても、熱く込み上げてくるほど。それはメロディやリズムももちろんありますが、歌詞です。歌詞が原因だと思います。共感してしまうんです。

今年のゴールデンウィーク、生まれ育った場所へ足を運びました。三重県の伊勢志摩です。海も山も自然がいっぱいある環境で高校生まで育ちました。季節はちょうど潮干狩りシーズン。私はアサリが大好きで、母は味噌汁にしてくれました。でも、そのときのアサリは私が知っているアサリではありませんでした。まず貝殻が厚い。模様もいびつだし、貝の表面が粗いんです。だからもちろん、口に含んだときの舌触りも悪い。そして何より身の味が悪い。味がないし、噛むと何だかゴムみたいな感触なんです。一つ食べただけで、後は汁をすすっただけでした。昔もこの種のアサリが、たまに混じったりすることはありました。でも、今ではこればっかりになってしまったというのです。すぐ目の前の海でとれるアサリは…。去年ぐらいから、これしかいなくなったと両親から聞かされて、悲しさとともに憤りを覚えました。「なんで」という言葉が頭の中をぐるぐるまわりました。「なんでだろう」という悠長なものではありません。矢継ぎ早に「なんでなんでなんで」と連呼しました。「なんでかわからんけどそうなんや」と、あきらめモードの両親の言葉に余計腹が立ちました。でも所詮、そこに住んでいない私があれこれ口出しするのもおかしな話なのかもしれません。住んでいない者は勝手なことが言えるからです。でも、でも、でも…。そんな気持ちになりました。海が悪くなったんでしょ、山が、川が原因でもあるんでしょ。でもでもでも、それも人間が原因だろうけど、どうすれば元のアサリが食べられるの?そんな答の出ない疑問は、それからずっと私の頭の隅にありました。これが「島人ぬ宝」の涙につながったのだと思います。

この歌は1番が「島の空」、2番が「島の海」、3番が「島の歌」をテーマに歌っています。3番の島の歌は、沖縄県民でなければ深く心に響かないかもしれませんが、1番と2番は島を沖縄と限定しなくても、日本という島国とも解釈できるものです。少なくとも私はそう感じました。この2番が特に私を泣かせたのです。

夏も過ぎ、やっと秋らしくなったつい最近、NHKの教育テレビで環境がテーマの番組を見ました。土曜日の朝、何気なくチャンネルをまわしているとき、「英虞湾での環境への取り組み」という文字を偶然目にしたためです。それから見入ってしまいました。英虞湾は言わずと知れた真珠で有名な場所です。ミキモトパールで有名な御木本幸吉が真珠養殖に成功したところで、リアス式海岸の穏やかな海には、今でも真珠養殖の筏があちこちに浮かんでいます。その英虞湾で真珠養殖を営んでいる方が主人公で、こう語っていました。「じいさんやおやじの頃のような真珠は、どう頑張っても俺にはつくれない」と。時には貝が全部口を開けてしまって全滅したこともあったそうです。原因は海が汚れているから、ということは想像できるけど、何が海を汚しているのかハッキリとはわかりません。それで、専門家とともに海水を調べたそうです。

その結果わかった原因は、一つは貝そうじの後のゴミ。もう一つは真珠が育つアコヤ貝の糞などの排出物だったのです。つまり、原因は2つとも真珠養殖そのものにあることなります。貝そうじとは、アコヤ貝を海に吊るしておくと、貝の表面に寄生虫や海草などが付着し、貝の環境に良くないので、定期的に引き上げて表面を削り、付着物を取り除く作業です。真珠養殖業者にとっては重労働で骨が折れるものの、重要な仕事の一つです。その削り取ったものは、海に捨てる習慣があるようです。そのゴミとアコヤ貝の排出物が、長年の積み重ねにより海底にヘドロを蓄積し、有毒ガスを発生させているというのです。アコヤ貝の排出物は仕方がありませんが、貝そうじのゴミは海に捨てないようにすればいいだけのこと。そして、英虞湾では海底掃除が始まりました。汲み取ったヘドロを精製して土に変え、それをどうしたと思いますか。コンクリートで固められ消滅してしまった浅瀬を、再生したのです。この浅瀬も、海の環境を正常に保つために欠かせないものだそうです。浅瀬に住む生物が海を掃除してくれているからこそ、海はきれいでいられるのだとか。浅瀬に住む生物といえば、代表的なものはアサリです!このとき、私がゴールデンウィークのときから感じていた疑問が解けました。私が育った海も、同じ状況だったのです。子どものころ、夏休みは毎日家から徒歩5分の海で泳いでいました。もちろん浅瀬があり、だんだん足が届かなくなっていく海です。コンクリートで固められているために、急に深くなっているプールのような海ではありません。でも、何年前だったでしょうか。その泳いでいた浅瀬はなくなり、コンクリートの高い塀ができ、道路ができたのです。浅瀬はなくなりました。もちろん他の場所にも浅瀬はあります。でも、浅瀬が一カ所なくなれば、それだけ海は浄化作用が低下するはずです。きっと、私が大好きなアサリが食べられなくなった原因の一つは、ここにあると思います。それに、英虞湾に比べれば少ないものの、この湾でも真珠養殖をしている人がいます。母が子どもの頃は真珠の貝そうじがアルバイトだったぐらいですから、ヘドロの蓄積も相当のものでしょう。

少しずつ海が変わっていっているのはわかるけど、どうしたらいいのかわからない…ゴールデンウィークから感じていたこんな謎が解けたと思えた土曜日でした。そしてまた、「島人ぬ宝」を聴き、口ずさんでいると、2番のところで涙を流してしまうのでした。

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