No.93 屋久島紀行
A子の知り合いで、屋久島へ移住したご夫婦がいる。私(Y子)が屋久島で知っていることといえば中学の時、日本で一番雨が多い島と習ったことくらい。あ、それと世界自然遺産に指定されたことも知ってた。要は ほとんど知らない秘境だった。聞けば、最近屋久島ブームがあり移住した人も多いとか。Wさんもリタイヤ後の移住先を、現役時代からあちこち探して一番気にいった屋久島に決めたのだそう。知らなかったけどNHKの朝ドラの舞台にもなったばかりだった。 屋久島は意外に近い
長い雨でセーターが欲しかった横浜から鹿児島へ降り立つとギラギラした真夏の太陽に迎えられた。これでこそ夏だ!鹿児島から船(ジェットフォイル)で種子島経由でも2時間半。屋久島はイメージよりずっと近いのだった。港に出迎えてくれたWさんご夫妻の車でいざ屋久島見物の始まりだ。
屋久島で一番有名な樹齢7000年の縄文杉を見るためには8〜9時間かかり、かなりハードな山登りをしなければ・・ということで今回、これはパス。だって屋久島へいられるのはたった1日半なのだ。
ヤクスギランド
標高1000メートル付近まで車で上る。屋久杉の自生林の中に遊歩道が整備されていて、歩きやすい。樹齢2000年クラスの屋久杉の森だ。樹齢3200年の紀元杉を見る。元の幹は切られ白い枯れ木の様相をしているのに、脇芽から枝が伸び、「まだまだ」と命を主張している。生命力のかたまりだ。陽が射していたかと思うと、ざっと雨が降ったり、雨とも霧ともつかぬものが立ち込めたり、その変化の激しさにこれぞ屋久島かと、あったかい雨にぬれて歩く。雨がちっとも苦にならない。
野生の猿や鹿があちこちで見られる。最初見つけた時は興奮して写真をとったが、何度も見かけるうちに慣れてしまった。猿はわざわざ車の通る道路端に親子で佇んでいたりして、ひょっとしたらえさを期待してのことか。そういえば「猿にえさを絶対にやらないでください」の標識があった。
火星を見た
今年は6万年ぶりに火星が近づく年だとか。天の川がくっきり見える。そんな満点の星空のなかでも一段と明るく、赤く輝いているのが火星だった。思いがけないプレゼントだ。
屋久島一周
屋久島は隣の種子島が細長いのに比べて、丸い形をしている。Wさんの家は島のいちばん南の、海が見える高台にある。2日目はそこから時計回りで屋久島一周することに。島の周りは道路が整備されていて車で回れば4時間くらい。もちろん私たちはあちこち見ながら一日をかけての一周だ。
大川の滝
川原の石づたいにあるいていたら急に目の前に滝が。岩肌にも緑の色が透けて樹木の上を水が落ちているように見える豪快で美しい滝だ。しぶきが掛かるほど近くまで行けるのが嬉しい。見とれながら歩いていてY子すっ転び、膝をすりむく。用心用心。それからは景色は立ち止まって見ることにする。
西部林道
島の西側は杉の林とはまた感じの違う照葉樹林帯で、屋久島のなかでここだけ海岸線が自然遺産領域にはいっているのも分かる気がした。屋久島灯台、海亀の産卵地、潮の引いた時だけ入れる海の中の温泉(水着を持ってくればよかったとA子,Y子とも悔しがる)を見て、ガジュマル公園は島の北端。ここでちょうど半周だ。
白谷雲水峡
車で標高800メートルまで、30分ほど上って約1時間半コースを歩く。昨日のヤクスギランドの南国的イメージとはまた違った雰囲気だ。杉は何種類もの照葉樹を寄生させ一本の木とは思えない複雑な外観をしている。1000年、2000年かけてごつごつ、もりもり、くねくねとこの複雑な樹形ができたのか。そしてそれら木の幹も岩も石もすべてが苔とシダに覆われた緑の別世界だ。「もののけ姫」の舞台になったというまさに幽玄の世界。目を凝らせばどこやらに森の精が隠れていそうな、耳を澄ませば千古から生きつづける樹のささやきが聞こえてきそうな・・・。
そんな神秘の世界に浸っている時、キャーっとA子の叫び声。ツルツルの姫シャラの木をなでていて蜂に刺されたのだった。指が見る見るうちに腫れてムチムチした赤ちゃんの手に。右手全体が痺れてきた(らしい)。薬はないし、どうしようと思案するなか、○○をかければ!とおばあちゃんの知恵を出すものあり。効いたのかそれ以上は腫れずにすんだのだった。宿に帰ってA子は手に、Y子は足に薬をつけたのは、珍道中ならではの光景だったかもしれない。
これは2000年、これは3000年と千年単位で樹齢を数える屋久杉を満喫して、それに比べて人間の世界はなんて小さいの!とすっかり気分が大きくなった屋久島の旅だった。
2日間付き合ってくださった素敵なWさんご夫婦への感謝の心とともに忘れがたい旅になった。

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