No.53 あなたは日本を愛していますか
ある日の日本語学校の講師室での話。レッスンを終えて仕事をしていると、A先生が「日本を愛していますか」と他の先生に質問をしました。「はい。愛しています」と答えた人もいれば、「うーん」と唸った人もいました。私はというと「愛しているかと言われれば違う気がするけど、好きかと言われれば好きなほうかな」と、何とも中途半端な答え方でした。
この質問の意図には、このようなことがありました。 テレビをつけると必ずやっている現在のニュースといえば、5月8日に起きた中国瀋陽の日本総領事館駆け込み事件。別名、北朝鮮住民亡命問題。
A先生のクラスで、このことが話題になったそうです。そして中国人の一人が、「北朝鮮の人は愛国心がない」と発言。その人はもちろん愛国心があります。それで他の中国の人にも「中国を愛していますか」と尋ねてみると、みんな「あります」と言い、「もちろん」という言葉をつけたのだそうです。そんなことがあったため、日本人は何て答えるのか聞いてみた、ということでした。これを読んでくれているあなたなら、どう答えますか。「あなたは日本を愛していますか」。
日本は世界有数の愛国心がない国かもしれませんね(笑)。この話をしていて思い出したことがあります。日本に住んで10年ぐらいという40代の韓国の女性が、以前こんなことを言っていました。「日本は信仰する宗教をもっていない人が多いからいけないんです」と。確かに一理あるでしょう。愛国心は一つの宗教のようなもの。共産主義や社会主義なども、何かを信じる点では同じ。個人主義の最たるもののようなアメリカ合衆国でさえ、テロのあとの様子を見ると愛国心を感じさせるものがありました。そういう意味では、天皇制によって国が一つにまとまっていた日本の戦前は良かったのかもしれませんね。バリバリ戦後生まれの私には考えられないことだけど…。
それにしても「愛している」という言葉の真の意味が私には良くわかりません。これは日本語なのでしょうか?と問いたくなります。私の中では、英語のloveが訳されてから日本語として頭角をあらわしてきた感があります。勝手な勘違いでしょうが…。だって、「好き」ならわかるけど「愛」って実感できないんですもん。まだ「お慕い申し上げます」のほうが実感できます。世代差でしょうか、個人差でしょうか、何なんでしょうか。
国によって「愛」や「愛する」の概念って違うんでしょうね。そういえば、ギリシャ人がこんなことを言っていました。ギリシャ語の愛に相当する「エロス」という言葉を聞くと、日本人は変な意味に捉えるけど、ギリシャ人にとって「エロス」という言葉は、心に響くとても意味のある、それはそれは素敵な良い言葉なのだそうです。日本で「エロス」という言葉の解釈が変な方向にいったのは、いったい誰のせいでしょうか。ギリシャの人たちに「ごめんなさい」と言いたい気持ちです。

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