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コラム ふしぎ日本語 - バックナンバー  

第122回 どうぞ来てください。 

角川

 この「どうぞ来てください」という表現、みなさんはどんなときに使いますか。自宅に友人を招待するときでしょうか、それともパーティーやミーティングへの参加を促すときでしょうか。いろいろと考えられることでしょう。
 実は、今回ご紹介したいのは「けんか」の場面での使用です。ある韓国人の日本語学習者が日本人と言い争いになり、相手にけんかをふっかけたのだそうです。そのときに口から出た日本語が「どうぞ来てください」。普通なら「こいよ!」とか、「かかってこい!」と言うべきところです。それが「どうぞ来てください」では相手は意味がわからず、拍子抜けしてしまったのではないでしょうか。けんかにならなくて良かったというべきなのか、本人にとっては不本意なことだから問題だというべきなのか、それは難しいところです。

 これと似ている次のような話を聞いたこともあります。知り合いの日本語教師が野球観戦に行ったときのことです。どこからか大きな声援が聞こえてきたのですが、それは「松井〜打ってくださーい」だったとか。職業がら、「あ、きっとあの声援は外国人だな」とピンときたそうです。この場合は「松井〜、打てー」と言うべきでしょう。このように応援するときにも命令形を使いますが、「〜てください」を使ってしまうことが外国人には多いようです。それはなぜでしょうか。
 日本での生活には不自由なく日本語が話せる外国人でも、命令形の適切な使用は難しいようです。命令形は初級で学習する文型であり、決して難しいものではありません。ただ、「どんなとき、だれが、だれに、どんな意図で」使用するのかということに関しては、限定された場面を提示をする機会しかないのかもしれません。おそらく、命令形は乱暴な言葉であり、使用すると相手を怒らせたり、けんかになる可能性があったりするため、実際に使用するのは避けたほうがいいと教えるのではないしょうか。また、職場で上司が自分に対して使ったときに理解できればよく、わざわざ使用することはない、と教えるのかもしれません。そして初級での導入後は触れる機会がないのが現実なのではないでしょうか。

 確かに、命令形の使用は危険性がともなうことを伝えるのは大切なことです。しかし、学習者だってけんかをしたいときもあるでしょう。悪口も言いたいだろうし、気のあう仲間とくだけた日本語で話したりもしたいでしょう。例えば、バイト先で店長や先輩に仕事を押しつけられたことに対して腹がたち、そのことを日本人の友人にグチるとき、「ったくぅ、そのくらい自分でやれっちゅうのっ」「バイト料、上げろよって感じ〜?」というような会話を、本当はしたいかもしれません。
 命令形の使用場面は、犯罪やけんか、上下関係での指示命令など、相手に直接働きかけるマイナス的要素の強い場面での使用だけでなく、励ましや応援などプラスの使用もあります。また、第三者に不満や愚痴を言うときにも使います。これを機会に日本人が命令形を使う場面について、テキストにはない場面を、他にもいろいろ注意して観察してみたいと思います。


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