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コラム ふしぎ日本語 - バックナンバー  

第95回 オノマトペの魅力

里楽熊

 日本に住み、日本語の学習に取り組んでいる人のなかで、仕事や受験、生活環境における様々な目的のために、気分が乗っても乗らなくても日本語に向かわなければならない人の占める割合は大きいだろうと思う。「日本語が好きで好きでたまらないから勉強する」人は少ないかもしれない。必要に迫られて学習していても、聞き取れなかった友人間・同僚間の会話が理解できるようになったり、長めの文章が読めるようになったり、テレビを見ておもしろいと感じたり、という学習の成果を実感できているときは、「さらに次のステップへ」という意欲を生み、モチベーションの維持がたやすくできるだろう。しかし、学習を継続してさえいれば常に右肩上がりに進歩していくというわけではない。「足踏み」状態になる時期は誰にでもあるだろう。そこでその人それぞれのスランプをどのように乗り越えるか。そこで教師側がどんな助け船を出してあげられるか。助け船を出したつもりでも乗り込んでくれない場合もあるし、意図して練ったものを出してあげられなくてもちょっとしたきっかけから学習者自身で助け船を見つけ、乗り込んでいる場合もある。

「好きな言葉は『ネバネバ』です」
4年ほど日本語学習を続けてきて、最近中級から上級への壁を強く感じるようになった学習者Jさんは、興味のある日本語やおもしろいと思った言葉などについて話しているとき、こう言った。オノマトペがJさんの学習生活のなかで一服の清涼剤となり、日本語学習の「楽しめる部分」になってくれるかもしれない、という期待をもった。

 日本語はオノマトペ(擬音語・擬態語)がとても豊富な言語で、英語には約3000語あるのに対し、日本語には約12000語のオノマトペがあると言われている。日本語は英語に比べて動詞の数が少ないからだという。「笑う」を表す英語の動詞を見てみると、
laugh:声を出して笑う
smile:微笑する
chuckle:ほくそ笑む
giggle:くすくす笑う
grin:ニヤリとする
simper:間が抜けた感じでニヤニヤする
guffaw:ばか笑いをする

と、たくさんあるのに比べ、日本語は「笑う」「ほほえむ」と動詞が限られているかわりに、「ゲラゲラ」「ケラケラ」「クスクス」「ニヤリ」「ニタニタ」「ヘラヘラ」「ガハハ」とたくさんのオノマトベがあってさまざまな笑いの様子を伝えることができる。(注1)

 ある日、Jさんはレッスン日に顔を合わせるなり楽しそうに口を開いた。「先生、私は言葉を作りました。『ギフギフ』というのです。人から何かもらって、うれしい?!!という気持ちのときに使います」Jさんが英語圏出身というところから、「ギフト(gift)」という言葉を連想せざるを得なかったが、こうしてオノマトペに興味をもち、自分の感情や気持ちをぴったりと表すために言葉を作ってみようと心を動かしたという事実に、私が小躍りするほど嬉しかったことは言うまでもない。日本語の豊かなオノマトペは、文章に彩りを添えてくれるだけでなく、日本語学習者の言葉への関心をつなぎとめるものになってくれた。「学習」という捉え方でなく、これからもおもしろいと感じたオノマトペを見つけたり、作ったりしたら教えてもらう約束をした。学習者からこんな反応をもらった教師は、こんなとき「ギフギフだなあ」と使っていいのだろうか。Jさんに使い方をもう一度教えてもらわなくては…。

(注1)『絵本翻訳教室へようこそ』(研究社、灰島かり著)より参考、抜粋

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